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2012/02/22

吸い込む恐れ







 


     
目に見えぬ恐怖 第7話

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「そう言えば峰岸さん、御職業聞いてなかったですね
登山家なんですか?」
峰岸と早苗とのやり取りの後、高橋が興味深気に聞いた。
「いやぁ~そんな時分もありましたけど、今では余暇、気晴らし
程度に留めています」屈託のない笑みを浮かべながら
仕事は建築関係ですと付け加えた。
「えっ、では私と同系ではないですか?」
「まぁ、そうですね。でも建築とは言っても建てる側ではなくて
住む側の立場でしょうか?」
「ほぉ?」興味ありげに高橋の表情が生き生きとし出しす。
「より住み易い住宅を建てるアドバイザーと言うと
カッコ良過ぎですかね?」
峰岸が悪戯っぽく笑うと、高橋が大きく頷き
「いえ、それは私が目指しているそのモノですよ。住み易い
住宅。安心して生活出来る建物。大事だと思います」
最後の言葉には高橋らしい、重みが感じられた。
それを聞いて峰岸が「建材ですか?」
「そうです」と短く答え、さらに
「床材、畳、壁、天井、それらに使われる塗料。我々の
住もうとしている建物には危険性の高い物質が隠されています」
「アスベストですね」峰岸がぽつりと聞くと。
高橋は目を閉じて、黙ってしまった。
早苗は高橋がどんな話しをするのか、ものすごく気になっていた。
高橋の表情は暗く重い。見つめていると、ゆっくりと目を開け
「峰岸さんは職業柄、アスベストに対する知識はあると
思うのですが、高木さんは、どうですか?」
峰岸に問い掛けるのではなく、早苗に話しが周って来たので
正直、驚いた。
「えっと、そっ、ですね、わっ、私は」
何も分かりませんが本当のところだった。
がしかし、高橋はうんうんと頷き、そうなんです。と言う。
何がそうなのか、早苗にはさっぱり分からない。
そんな早苗の顔を見て
「高木さんの様に知らない方が、多分殆どでしょう。
だからより危険なのです」
高橋の顔が少し強張った様に見える。
「高橋さんがアスベストに注目する訳を知りたいな」
峰岸が腕を組み直して聞いた。
高橋は大きく息を吐いてしばらくすると
「私の父親は、アスベストが原因で死にました」
ポツリと言った。
峰岸が済まなそうに視線を落とすと。
「気にしないで下さい。アスベストで亡くなった人は
他にも大勢居ます」
その後、高橋は父親が亡くなった経緯を、時系列に合わせ
話してくれた。
その中には早苗が始めて耳にする『中皮腫』があった。

『中皮腫』とは肺、胸膜など中皮の癌。
他の癌と同じ様に良性と悪性があるようだが
殆どの場合、悪性なのだそうだ。
その原因は『アスベスト』の割合が高いとされている。
『アスベスト』の線維は異常に細い。
髪の毛の1000分の1~5000分の1とも言われ
それを吸い込むことで、まず肺に炎症が起こり
癌へと症状が進むことが多いと言うのだ。

「今現在、アスベストを含む製品は製造されてません、もちろん輸入も
出来ません。そのはずだと私は信じたいです。ですが
過去、日本はアスベスト天国だった時期がありました。
アスベストの特性を歓迎し、隠れた性質を聞こうともせず
使い続けたのです。その結果、恐ろしい環境が
今、日本中に出来上がってしまったのです」
傍らで聞く峰岸は、奥歯を噛む様に頷いている。
「海外では早い段階で、アスベストの危険性を指摘していました。
しかし日本国政府は、それを無視し、続け使い続けた。
如何に耐久性がすぐれていようと、劣化は起こります。
そこから飛散したアスベストは、ゆっくりとその場に
居合わせる人の身体に吸い込まれ
長い年月の後、突然、発症し苦しむのです。
私の父親は、地下の倉庫で働いていました。
定年後、これから余生を、ゆっくりと楽しもうとした時
急激な痛みが身体を襲い、もがき苦しみ
呼吸もままならない状態で死んで行ったのです。
何が夢の鉱物だ!」
昼間の高橋からは感じられない口調に
何故、ここまでアスベストにこだわったのか
少し、早苗は理解出来た気がした。
高橋の表情は、怒りに満ちている。
しかし、それだけではないだろう。
他の人の身体を気遣う行動は、アスベストの怖さを
知っているからなのではと、早苗は感じるのだった、


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   あさい

   

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